ハワイの火の女神ペレ:ヒイアカとロヒアウ

過去、ペレに言い寄ってきた男は数知れず、中には一時とはいえ一緒に暮らした男もいますが、この話は、ペレ自らの結婚願望?についての話です。
(この物語の原文はかなりの長編ですので、別途、「ヒイアカの悲劇」というカテゴリーとして独立させました。詳しくお読みになりたい方はそちらも参照してください。)

【ペレの長い眠り】
美しいプナの村でペレ達姉妹は楽しく暮らしていましたが、そんなある日のこと、ペレは突然、「今から9日間の眠りにはいる」と、妹たちに宣言します。そして特に末の妹ヒイアカに対し、9日後に確実に目を覚ますよう、そのときはフリヒア(生命復活のチャント)を詠ずること、また、多分この眠りの中で自分の結婚相手を見つけてくることを伝えます。優しいヒイアカは眠ったペレの枕元に芳しい香りの花を並べ、9日間が過ぎるのをじっと待ちます。

眠っている間、ペレの魂は、かすかに聞こえてくるドラムの音を頼りに、島伝いにカウアイ島へと飛びます。ちょうどそこでは、カウアイ島のハンサムな王子ロヒアウが仲間達とスポーツに興じている最中でした。人々は、若くて豪奢な美人のペレが、これまた最上の衣装をまとって霧の中から現れてきたことに驚きます。ロヒアウには既にそのとき、妃の候補の女性が3人ほどおり、特にその筆頭候補であったキリノエは、ロヒアウの屋敷にはいっても彼のすぐ横に腰を下ろします。ほどなくペレの存在に気がつくキリノエ。当然のことながら、激しい火花が散り、キリノエはなんとか異邦人のペレを貶めようと必死です。皮肉やら自慢話やら、「女の戦い」を仕掛けるキリノエ。しかし、彼女にとって不幸なことに相手はペレです。ペレが少しチャントを唱えるだけで、カウアイ島の気候が一変し、キリノエはすっかり怖じ気づいて退散してしまいました。

無事、ロヒアウの心を独占し、邪魔者も駆逐したペレ。しかし9日間はあっという間です。どこからかヒイアカの唱えるチャントも聞こえてきます。ペレは涙を流しながら愛するロヒアウとの別れを惜しみ、「これからいったんプナに戻るが、自分の妹を迎えにやらせるので、プナまで訪ねて来てくるように」と言い残して、姿を消します。しかし、伝説には「ペレの去った後、ロヒアウには平和が訪れ、カウアイ島は再び静寂と安らぎを取り戻した」ともあります。ロヒアウは果たして本当に幸福だったのか・・・?

【ヒイアカの悲劇】
目を覚ましたペレは、妹たちを1人ずつ呼びつけ、ロヒアウを迎えに行くよう言います。しかし彼女たちはペレの性格をよく知っており、長期間留守にしようものなら何が起きるかわからないため、皆一様に丁重に断ったあげく、とうとう末の妹のヒイアカが呼ばれました。心優しいヒイアカは姉の頼みを断れません。しかし、彼女もペレの性格はよく知っています。出発するにあたって、2つだけペレに約束してもらいました。それは、どんなことがあっても、ヒイアカの幼なじみで親友のホポエ、ダンスを教えてくれたホポエだけには絶対に手を出さないでくれ、また、ハワイ島中を焼き尽くすようなことがあっても。ヒイアカの大切にしているレフアの花の森だけはそのままにしておいてほしい、ということです。

ペレは快く承諾し、ヒイアカに40日という期限を切って、即日出発させます。しかし、気が急いているペレは毎日のようにヒイアカの動向を尋ね、邪推し、まだ40日の期限も来ないうちに毎日のように地震を起こし、熔岩を流して、ヒイアカの愛したレフアの森を焼き尽くし、ホポエの済んでいる村も焼き尽くし、ホポエを死に追いやってしまいます。しかし、ペレは彼女から人間としての命は奪ったものの、精霊としての力を与え、彼女を大きな岩に変えてしまいます。これが伝説のホポエの岩で、ダンスが上手だった彼女の魂が乗り移っているこの岩は、まるでダンスを踊るように動くことがある、と言われています。

【ヒイアカの冒険】
ヒイアカが、ロヒアウの住むカウアイ島に到着するまでの間、「どうしてここまで?」と思えるくらいの多くの邪魔が入ります。その多くは土地固有の邪神によるもので、その都度、ヒイアカは戦いを強いられます。ただ、途中で味方も増えていき、ペレの要請でヒイアカに同行することになった「シダの女神」パウオパラエ(Pau-o-Palae)、そして人間の少女であるワヒネオマオ(Wahine-Omao)の3人で、力を合わせて邪神と戦うことになります。よくわからないのは、やはりペレの気まぐれさ、で、最初、急がせるあまりヒイアカをたった1人で、しかも食料も何も持たせずに着の身着のままで出立させたペレですが、ヒイアカが苦労するのを見て、彼女にペレの力の一部を与え、また、稲妻を発することができるスカートを与え、それでも不十分と思ってパウオパラエを同行させることになったのです。

ヒイアカの戦った相手は、パナエワ(Pana-Ewa)というトカゲ男、クプア(Kupuas)という伝説の怪獣、マカウキウ(Makaukiu)という、残忍そのものの怪獣、マヒキ(Mahiki)と呼ばれる竜巻の化身、ピリ(Pili)とノホ(Noho)という、ワイルク川に住む2匹の竜、モオラウ(Moo-Lau)という、コハラに住む龍神などと、なんだか現代のテレビアニメでも見ているかのような戦いを繰り広げ、次々と打ち破っていきます。また、特筆すべきなのは、旅の途中で、一度死んだ人間を蘇生させる、すなわち、魂を捕まえて体に呼び戻す、という技もしばしば発揮していたことです。これが後のロヒアウとの出会いに大きく役立ちます。

【ロヒアウとの出会い】
長い旅路の末、ヒイアカ達3人は、ついにカウアイ島へたどり着きます。ところが、あろうことかロヒアウは既に死んでおり、その亡骸は、以前ペレに負かされたキリノエに見守られながら洞窟の中に安置されていたのです。というよりも、竜との半神であったキリノエがロヒアウの魂を抜き取り、自らのものにしていた、と言ったほうがよいかもしれません。とにかく、ヒイアカ達はまず、ロヒアウの亡骸を取り戻し、彼の親戚や友人を集め、各種のタブーを設定し、そして、竜から魂を取り戻す算段をたてます。竜との戦いは困難を極め、ようやく打ち勝ったものの、魂を体に戻す期限まで、時間はほとんどありません。ここで、ヒイアカは太陽に祈り、太陽に、日没を少し待ってもらった、という言い伝えもあります。とにかく、パウオパラエと協力して無事、ロヒアウの魂をその体に戻すことができ、傷んでいた体も修復できました。

しかし、ロヒアウを蘇生させるだけでもひと月近くの日数を要し、もともとペレから言いつけられていた40日の期限はとうに過ぎています。ペレが怒りのあまり、ヒイアカとの大事な約束を破っていることもすでにヒイアカは知っています。しかし、忠実なヒイアカは、ロヒアウを連れてハワイ島まで戻り、ペレの住むキラウエアのカルアペレの近くまでやって来ます。ここでヒイアカはまず使者としてワヒナオマオをたて、ペレに顛末の報告に行かせます。しかし、ペレは全く聞く耳を持たず、ワヒネを牢獄へと放り込んでしまいます。(殺してしまったという説もある)

さて、ロヒアウ自身はどうかというと、もうとっくにペレへの愛情を失っており、底なしに優しく、誠実で、勇気もある美しい少女ヒイアカにすっかり惚れ込んでしまい、彼女に求婚します。そして、とうとうロヒアウとヒイアカは、ここキラウエアの地で夫婦となったのです。これを知ったペレが怒るまいことか。嫉妬に狂ったペレは持てる力の全てを2人にたたきつけてきます。人間であるロヒアウはひとたまりもありません。熔岩の奔流に呑まれ、彼は岩になってしまったのです。

ヒイアカ、限りなく優しく忠実なヒイアカは、夫になったばかりのロヒアウの死を目の当たりにしてとうとう発狂してしまいます。ヒイアカ自身が熔岩を流し、火口を爆発させ、ペレとその姉妹達に攻撃をしかけたのです。ヒイアカの発狂にペレ達は驚き、牢獄に入れていたワヒナオマオから、ヒイアカの誠実さと。苦労を全て聞きます。そして、遅蒔きながらも後悔し、自分の非を認め、ワヒネに、どうしたらヒイアカを幸福に戻せるのか真剣に相談します。

ワヒネは狂ったヒイアカの横に立ってチャントを唱え、彼女の気を静め、まずはロヒアウの魂を探して捕まえます。ペレはロヒアウの体を熔岩から出して修復します。こうして2度目の蘇生をしたロヒアウとヒイアカは皆に祝福されてカウアイ島へ行き、本当の死が訪れるまで、夫婦として幸福に暮らしたそうです。

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