ハワイの神話に関する本を読んでいるとしばしば「最初の人間」の神話に出くわします。最初の人間はクムホヌア、という
名前であることが多く、また、下の神話に示すような別の名前であることもありますが、大雑把には、まず男が作られ、
次に男の体の一部から女の体が作られた、というようなストーリーになっています。
ところが、この「神話」は19世紀になって作成されたものだということが、後世明らかになりました。
クムホヌア「神話」の発祥は、フォルナンダーという有名な、ハワイの神話研究家だったのですが、フォルナンダーが
ハワイの人々に取材をした際、助手として協力を仰いでいた数人のハワイ人学者たちがいました。
19世紀当時、ハワイにはキリスト教が移入され、当時のハワイの文化人たちは、ある種の文明の証として
キリスト教を信仰することが多かったといわれています。フォルナンダーの協力者たちもその例にもれず
熱心なクリスチャンとなっていました。実はそのことが原因で、ハワイの創世神話がいつの間にか旧約聖書の
アダムとイブの話と混濁してしまったというのが真相のようです。
類似の例で、「ハワイに昔、大洪水があった」という神話も散見されますが、これなども、ノアの箱舟の話が
ハワイの神話として混入されてしまった例のようです。
詳しくは、Dorothy Barrereという学者が1969年に書いた「The Kumuhonua Legends」という論文に載っていますが、 彼女はこの論文で、なんだかフォルナンダーがかわいそうになるくらい、フォルナンダーの誤謬を正確に指摘しています。
それはそれとして、「作られた神話」というものがどういうものであったのか、下記、簡単にご紹介してみます。
■ウエラ・アヒ・ラニ・ヌイの伝説
ハワイの最初の神は、クー、カネ、ロノ、カナロアの4人でした。彼らはどこか遠くの世界から、
数多くの精霊と共にやってきたそうです。当時、世界は巨大なひょうたんで作ったお椀のような
カタチをしており、その上蓋を投げあげたものが空になり、殻についていた果肉の一部から太陽や、月ができました。
また、その種子は夜空の星となりました。
神々はモカプ(Mokapu)と呼ばれる島に行き、そこで、地上の生き物全てを統括する生き物、すなわち人間を作ることに
決めます。そして、カネが泥をこね、ヒトのカタチを作りました。カナロアはその泥の固まりを見て笑い、
もう少しカタチ良く仕上げました。
次にカネはクーとロノに命じて、精霊を1つつかまえ、泥人形の中に押し込ませます。そして命を吹き込むチャントを
唱和し、やがて泥人形は男の人間になります。彼らはその男に「ウェラ・アヒ・ラニ・ヌイ」
(偉大な天が熱く燃え)と名付けます。
その男は神々の家に連れて帰られ、育てられますが、ある日のこと、家の外に出て歩いてみると、「黒い影」が自分の側に
常についてくることに気がつきます。彼が歩くと影も歩き、彼が休むと影も休みます。なんて不思議なんだろう、彼は訝しみ、
その影にアカ、という名前を付けました。(ハワイ語で影のこと)
クー、ロノ、カネは今度は、ウェラ・アヒ・ラニ・ヌイが寝ている間に彼の体を割き、その中から女性を取り出します。
彼の横に並べてみると、2人はとてもよく似ていました。
ウェラ・アヒ・ラニ・ヌイが目を覚ましてみると、自分の隣に美しい女性が横たわっています。彼は考えます。
「これは、神々が自分のために、あの、アカを美しい姿に変えてくれたものに違いない」と。そこで彼はその女性に
「ケ・アカ・フリ・ラニ」(天は影の姿を変え)と名付けます。
この2人が、やがてハワイの全ての人々の先祖になった、ということです。
■クムホヌアの伝説
カネ、クー、ロノは、最初の男「クム・ホヌア」を湿った土を型に入れて作り、妻として
「ラロ・ホヌア」を与え、全世界を統べる首長としました。
この最初の人間の夫婦は、ラロ・ホヌアがアイア・ヌイ・ヌケア・ア・ク・ラワイア(魚獲りのための白いくちばしを
持った大きな海鳥)に出会い、カネの神聖な果実を食べるようにそそのかされるまでは幸せに暮らしました。
ラロ・ホヌアは発狂して海鳥となり、一方、夫の方は死を宣告されました。
死は、カネとロノとクーが1つになり、ラロ・ホヌアの罪に対する罰として定めたものであった、ということです。