昔、ハワイ島ワイピオの渓谷にカホロとカケアという夫婦が住んでいました。やがてカケアは
みごもり、その出産の準備とお祝いのために、カホロの姉のパカヒが、腕の良い
バードキャッチャーであった夫カウキニと一緒にかけつけてきてくれました。
男の子が生まれ、名前はヒイラウェと名づけられました。パカヒは、赤ん坊の寝床のために
柔らかい海草をたくさん集めてあげましたが、ふと見ると集めたはずの海草が減っています。
変だな、とは思いましたが、時間をかけて集められるだけ集めて、義理の妹にプレゼント
したのです。自分達夫婦には子供がいなかったので、彼女は心底、妹の出産を祝ってあげたのでした。
その夜、パカヒは夢を見ます。夢に出てきたのはヒナ・ウル・オヒアという女神。
なんとパカヒに子供を授けてくれるというのです。ヒナが言うには、
「今、ワイピオの谷で子供を育てる準備をしている。今から30日後に子供を授けるから
きちんと準備しておくように」ということでした。
目を覚ましたパカヒ。半信半疑でしたが、夢に出てきたワイピオの谷間に行ってみると、
赤いもやのようなものが見え、そこには先日、彼女が集めていたはずの海草が敷かれているでは
ないですか。さらによく見ると、もやの中に何かいるようです。
彼女が手を伸ばしてみると、回りの木の枝が一斉に動き、彼女の手を払いのけようとします。
そうか、30日後だったんだわと思い直して彼女は家に戻りました。
その後も時々ヒナはパカヒの夢に出てきては、「このことは絶対秘密で、生まれるまでは誰にも
しゃべってはダメよ」とか、「本当はあなたも子供が欲しかったんでしょ」とか、いろんな
ことを語りかけてきたのでした。
そしてついに30日後。夕方、仕事を終えた彼女が家の近くまで戻ると、なんだかいい匂いがします。
まるで宴会の準備が整いつつあるようです。でもいったい誰が?
いぶかしく思ったパカヒが少し離れたところで見ていると、なんと、谷間に茂っていた木々が、
まるで人間のように動いて、てきぱきと準備をしているではありませんか。
やがて夫も戻ってきて、一緒になって驚いていると、宴席も整ったようで、みんな解散していきます。
2人があっけにとられながらとりあえず宴席に着いたところ、そこに、女神ヒナとその夫クーが
小さな女の子の手を引いてやってきたのです。そして、
「たしかにお前に預けたぞ」とだけ言い残して去っていったのです。