ハワイの神話と伝説~カヌー作りの秘儀

コアウッド(Acacia koa)という木をご存じでしょうか?大変美しい木目を持ち、ハワイアンマホガニーともよばれている木です。また、この木は とても堅くて耐久性に優れていることでも群を抜いており、ハワイではカヌーやサーフボードは伝統的に、このコアウッドで作られています。

コアウッドの切り出しにあたっては、神聖な儀式を経た後に、石斧や手斧が使われます。こうして切り出されたコアウッドで作られたカヌーはし ばしば、風の精霊の力を得て不思議な力を持ち、全然風など吹いていなくても、鮫よりも速く進むことができたりするのです。

昔、ハワイ島の1人のハンサムな若い族長がカウアイ島に遊びに行ったことがありました。そこでは、王の娘を囲んでの宴たけなわで、まさに、 娘の婿を選ぶためにカヌー・レースが開かれようとしていたところだったのです。ルールはいたって単純。いっせいに港をスタートし、一番速く 隣のニイハウ島にたどり着いた若者が王女を獲得できる、というものです。

数十隻のカヌーが一斉にスタートし、あるものは互いにぶつかり合い、あるものは互いに大声で罵り合うことに夢中で、全然前に進んでいません 。若者は最初は笑ってそれを眺めていましたが、王女とその取り巻きに「自分も参加していいか」と承諾を求めます。もとより、ハンサムな若者 の申し出に女性達が喜ばないわけはなく、若者はおもむろに自分のカヌーの準備を始めます。

きれいに磨き抜かれたコアウッドのカヌー。最初はゆっくりとしか進まず、王女たちをがっかりさせますが、彼は風の精霊を友人に持っています 。おもむろに精霊を呼び出し、そしてカヌーは、まるで翼を持った鳥のようなスピードで、あっというまに島に到着し、また、あっという間にカ ウアイ島に引き返してきて、王女を娶ったということです。

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1840年頃のハワイの作家、デビッド・マローによれば、「カヌー作りは宗教儀式以外のなにものでもない」そうです。森の中で、これは、と いうコアの木を見つけたとき、まず、地区の僧侶にそのことを告げます。僧侶はその夜、夢占いをおこないます。夢の中に、裸の人間が現れたと き、その木はどこか不具合があると見なされ、木を伐採するのは中止になります。逆に、着飾った男女が現れたとき、その木は祝福されていると 見なされ、豚や魚、ココナツなどを捧げた上で伐採の祭事にとりかかります。
また、王族のカヌーを作るときには、コアの木の下に人柱を捧げたりしたこともあったようです。

伐採に当たっては、人々が見守る中、僧侶が厳かに伐採の宣言をし、木が倒れそうになると、人々に声を小さくするよう指示します。木が倒れる と、最も位の高い僧侶が進み出て、おまじないを唱えながら、切り出す長さを決めていきます。カヌーのおよその形の切り出しが終わると、かた く綱が結ばれ、ビーチに運び出され、再び僧侶によって、カヌーの守護神に対する祈りがおこなわれます。

カヌー本体が完成すると再び豚や果物(場合によっては人間も)が捧げられますが、こうした祈りやおまじないでの肝要な点は、僧侶以外の誰一 人として、決してしゃべってはならない、ということです。しゃべるとカヌーの持ち主の航海中に必ず災いが訪れる、と言われています。



手作りのコアウッド製カヌー(長さ6m) 最後の儀式は、カヌー本体にアウトリガーを取り付ける儀式です。カヌーのバランスを保つためにもアウトリガーはとても重要で、それに伴い、 儀式も大変荘厳なものであるようです。

・・・こうした儀式が始まるようになった由来として、次のような言い伝えがあります。昔、ラカという若者がコアウッドからカヌーを作ろうと 思い立ち、森に入って木を伐採しました。翌日、それを家に持って帰ろうと思ってその場所に行ってみると、切り倒したはずの木がありません。 もう1度やり直して、さらに翌日行って見てもやはり同じです。そこでLakaは夜中の間、一体何が起きているのか、コアの木を見張っている ことにしました。するとどうでしょう、夜が更けるとたくさんの小人がどこからともなく現れ、切り倒したコアの木を器用に元の位置に戻し、継 ぎ目無く、元の木の状態に戻して行くではありませんか。
びっくりしたLakaですが、彼はすかさず妖精達の王を捕まえ、彼らの協力を得るにはどうしたらよいかを聞き出します。それが、先ほどのカ ヌー作りの儀式一式だというわけです。

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