数百年前のこと、ハワイ島の最南端カラパナ(1990年に熔岩で全滅したことで有名な町ですね)の地にクカリという男が 住んでいました。彼の父は有名な高僧で彼にカヌーの作り方などと合わせて様々な秘術を教え、その1つとして「不思議なバナナの皮」 も彼に与えたのです。

このバナナの皮の効用は、食べても食べても中身が減らない、丁寧に皮をたたんでおくといつの間にかまたその中身が 満たされる、というものです。

そのころハワイの人々の間では大洋を航海するのが大流行。クカリも例に漏れずなんとかして遠くの島へ渡って みたいと思っていました。そして彼はまじないのチャントを唱え、森に行ってカヌー用の木を選び、 旅に出る準備を整えたのです。

吉日を選んで出発、幾日も幾晩も、太陽と星を頼りに航海を続け、やがて、夢にまで見た島に たどり着きます。浜に打ち上げられるようにして到着し、クカリはあまりの疲労にぐったりとその場に倒れ込み ますが、その前にしっかりとバナナの皮を腰布の中に隠すのを忘れません。しかしあまりにも ぐっすりと眠り込んでいたため、大きな危機が近づいてきているのに気がつきませんでした。

この島の支配者は、ハルル、という名の、人肉を喰って生きる怪鳥です。翼の羽1つ1つに爪があり、 また、人間と同じくらいの英知も備えていました。まるでアラビアンナイトに出てくる大鳥のように、 絶壁で囲まれた谷間に住んでいて、飛ぶときには嵐のような風が巻き起こります。

そうしてクカリは眠っているうちにハルルにさらわれ、彼の巣である大きなクレーターの底に 落とされます。さすがのクカリもこれで目を覚まし、見渡してみると、彼と同じようにハルルに さらわれて巣穴の中に閉じこめられている人々がたくさんいます。彼らは食べ物を与えられていなかったので、 衰弱し、次々と死んでいきます。ハルルはクレーターの縁に陣取って、時折羽で大風を起こし ながら、獲物とする人間を狙います。元気な人間はそれでも隠れ回って難を逃れることができますが、 衰弱して動けなくなった人間から順に次々と犠牲になっていくのです。

クカリはこの惨状を見て彼らを哀れみ、ハルルに打ち勝つための最強のおまじないを唱え、 例のバナナを取り出します。そして、全ての人たちにその空腹が見たされるまでバナナを与え続けたのです。 その上で、人々にナイフや手斧になるような石の探し方を教え、何日かすると、彼らは石器で完全に 武装することができるまでになりました。

クカリと彼の仲間達が最後の戦いの準備をしている間にも、ハルルは獲物を求めて羽ばたきながら 舞い降りてきていました。しかしながらみんな空腹を免れていたので、思うように獲物を捕ることができません。

やがて、いらだったハルルは、クレーターの壁に沿って、最大の力で大風を起こしにかかります。 そしてそのとき、クカリとその仲間達は隠れていた場所から一斉に走り出て、ハルルの羽めがけて 石器で斬りつけ、その羽をむしり取りにかかったのです。

ハルルは苦痛と怒りで叫び声をあげながら大きく羽ばたきますが、ついに翼の1枚がはぎ取られ、 残る1枚もぼろぼろにされてしまいます。ハルルは狂ったように叫び、今度は大きな爪を持つその脚で 攻撃を掛けてきます。

クカリは仲間を守るための力強い呪文を再び唱え、激しい戦いの後、彼らはハルルの脚も切り落とし、 爪を砕いた上、身体もバラバラにしてしまうことができました。

自由になった彼らは、壁に沿って階段を作り、蔓も使ってクレーターを脱出。そして枯れ木を集めてハルルの姿 が見えなくなるまでクレーターに投げ入れると、それに火をつけ、灰になるまで燃やしてしまったのです。

ところが、胸の羽2枚だけが、彼の妹、底なし穴に住むナマカエハのところまで飛んでいきました。 彼女はハワイに渡った、あの火の女神ペレのファミリーの1人です。彼女は羽から煙のにおいをかぎ取り、 兄が死んだことを知り、また、たった1人の魔法の力を持った人間に倒されたことも知ります。 そして取り巻きの僧侶達に、この魔法の力を持った男を監視するように言いつけます。

そのころクカリは島中を探検して歩いており、とうとうナマカエハの住む場所にやってきました。 底なしの穴を覗き見た彼は仲間に、「いったにこの中に何があるのか探検してくる」と言って、ハウの木の皮で ロープを作り、一方を自分の身体に結び、もう一方を仲間にあずけて穴の中に入っていきます。

彼はおまじないを唱えながら入って行きましたが、一部始終を見ていたナマカエハの仲間達によって、いとも 簡単にロープを切られてしまい、クカリは底なし穴に真っさかさま。

しかし、クカリは「落ちていく人間を救うおまじない」というものを知っており、彼はそれを唱えます。 「クーよ、私の命を守り給え!」と。
クカリのおまじないは大変に強力で、彼は無事、「命の水」の中に着水することができました。

これを見ていた、ナマカエハに仕える僧侶の1人は、いたく感激し、彼と友人になります。 そして、この地では、「熟した果実を食べると命が危ない」ことも彼に教えます。クカリは仲間にこのことを伝え、 決してあのバナナの実、以外は口にしないようにします。その後、ナマカエハの取り巻きの僧侶達のうち、 敵対する僧侶は全て倒し、良い僧侶達とは友好を結んでついに女神ナマカエハ本人の前にやってきます。

ここでも彼は差し出された果物を食べるふりをしてこっそりとバナナを食べて難を逃れ、ナマカエハを 倒した上に彼女と結婚し、しばらくこの地で安住します。やがて里心つき始めたクカリ。彼女を、親戚のペレも 渡ったハワイへ一緒に行こう、と説得し、大きなカヌーをつくってハワイへと旅立ったのでした。

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