19世紀から現在に至るまで、ハワイの神話伝説に関する書籍は数百冊も出版されてきました。「Hawaiian Legends in English」
(注)という、ハワイの神話伝説関係だけに絞った書籍のカタログ本が出版されているくらいです。
もともと、ハワイの人々は文字という情報伝達手段を持っていませんでした。
神話や伝説はメレ(歌)、オリ(チャント:朗誦)、フラ(舞踊)という手段によって、また、内容的には、
クアウハウ(伝記)、カアオ(おとぎ話)、モオレロ(歴史伝承)という分類で伝承されてきました。
そんな中、1820年、最初の宣教師団の到着を皮切りに、ハワイにキリスト教文化とアルファベットが
伝えられることとなりました。宣教師達は教化の一方で、ハワイ固有の文化や伝承が数多く伝わっていることに
も気がつきました。それらの多くはキリストの教えと矛盾するものであり、宣教師達は公式にはそれらを否定する立場にありました。
しかしながら伝えられてきた神話や伝説は、消滅させてしまうにはあまりに美しくかつ貴重な
ものも多く、一部の危機感を持った人々は、伝えられたアルファベットを利用してハワイ語を表現し、
それらの口承を記録しようと動き始めたのです。
ハワイ王国が滅亡する19世紀末までに、Abraham Fornanderはじめさまざまな人々によって膨大な伝承が
記録されていきました。それらは個別に出版されたこともありましたが、1940年、Martha Becwithによって分類・整理され、
「Hawaiian Mythology」という、金字塔とも言うべき著作によってまとめられました。
大ざっぱな言い方をすると、ハワイの神話伝説はBeckwithまでの人々によってオリジナルの話が集められ、
Becwithによってまとめられ、Beckwith以後の人々によって広く普及されてきた、と言ってよいかと思います。
ここでは、収集-整理-普及という、それぞれの段階で活躍した人々の片鱗を、その主要な著書とともに歴史を
追ってご紹介していきます。現在私達が入手できる本はそれらの一部に限られてしまうわけですが、それらの本の「位置づけ」
がわかるようになれば、と考えています。
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※(注)1949年に、Amos P.Leibというハワイ大学の英語の先生が初版を出版したのち、
1979年に、ハワイ関係の多くの著作で知られるGroveDay(ハワイ関連の権威と言ってよいでしょう)が1949年以降の
出版物を大量に補足して第2版を出版しました。Grove Dayはこのほかにも同様のジャンルとして
「Books about Hawaii:fifty basic authors(1977)」という本も出しています。