
前章に引きつづき、19世紀後半から20世紀前半にかけて、ハワイの神話伝説の英訳出版で活躍した人々をご紹介します。
■N.B.Emerson
Nathaniel B. Emersonは1839年、オアフ島に牧師の子として生まれました。大学時代は米本土で過ごし、南北戦争にも北軍側で参加しています。1878年にハワイに戻ってからは、らい病患者の収容施設で働くかたわら、終生、ハワイ文学の研究に情熱を注ぎました。特に詩歌に興味を持っていたようです。
彼には有名な著書が3つあり、1つめは、1903年のDavid Maloの「Moolelo
Hawaii」の英訳、「Hawaiian Antiquities」です。次が1909年、「Unwritten
literature of Hawaii」。現在ではもう伝えられていないフラソングなども数多く収録されている、
非常に貴重な本です。フラの題材にはペレ神話がそこかしこにちりばめられていますが、それらを集大成したのが1915年の「Pele
and Hiiaka」。この本は単一の神話の翻訳ではなく、おびただしいソースから集められたものですが、結果として一大叙事詩を
成しているという素晴らしい著作です。
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| Pele and Hiiaka | Emerson | Unwritten Literature・・ |
彼の英語表記があまりにも流麗なために、かえって「古典を損なっている」という批判もあるようですが、
文学作品としての完成度が群を抜いているという事実に間違いはありません。
■William Rice
Riceは1846年、神学校の教師の子として生まれました。白人であったにもかかわらず、ネイティブハワイアンの
環境で育ったため、彼自身は20才になるころまでは、ハワイ語で物を考えることが日常だったそうです。
米本土で大学教育を受けたあとはずっとカウアイ島で暮らし、37才のときには当時の女王、リリウオカラニの命で
最年少のカウアイ島知事を勤めたりもしました。
彼は若い頃からハワイの伝説に興味を持って色々と調べたりしていたものの、自分から著書を出そうとは
しなかったのですが、1923年、周囲の勧めもあって「Hawaiian
Legends」という本を著します。 この本に収録されている20編あまりの神話や伝説はどれも短く、ダイジェスト版を
読むような感じですが、それらを英語に翻訳するにあたってRiceは非常に気を遣ったようで、原文、というか元のハワイ語
表現を現代風の英語で損なうことなく、かといって直訳でぎくしゃくした訳でもなく、大変に「練られた」文章になっている
ようです。原文は彼が幼いときに聞いた話と、1912年頃までにカウアイ島の古老から聞き取った話をもとにしているとのことです。
初版はテキスト中心だったようですが、1977年の再版の際に大幅に手を加えられました。まず驚くのがその大きさです。
28cm * 35.5cmという大判で、また、ページをめくるとそれぞれの見開き左側に本文、右側は神話に対応した大きな写真と
なっており、モノクロ写真ではあるものの、写真集としても楽しめる構成になっています。
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| Hawaiian Legends(右)。左側はWesterveltのHonolulu Legends | ページを開いたところ。KANEの石の伝説 |
■Westervelt
ギリシア神話を広く一般に読まれるようにしたのはブルフィンチの功績だと言われていますが、ハワイ神話について、
ペレの神話などが一般に知られるようになったのはこのWesterveltの功績が非常に大きいとされています。
何しろ、1900年〜25年にかけて彼が新聞や雑誌に発表したハワイの神話伝説が約100編、それらをもとにして
出版した著書も6冊もあり、ページ数で数千ページにも及ぶのです。
「Legends of Old Honolulu」「Legends of Gods and Ghosts」「Hawaiian Historical
Legends」など、読みやすいためペーパーバックになっているものも多く、手にしたことがある人も多いのではないで
しょうか?かくいう私も最初に読んだハワイ神話はWesterveltの「Hawaiian
Legends of Volcanoes」でした。
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| Westerveltの著作の一部 |
Westerveltは1849年オハイオ州生まれ、オバーリン大学で神学を修め、各地の教会の牧師を歴任した後、
1899年になってハワイに腰を落ち着けます。彼のスタンスは現地の古老からのヒアリングではなく、
膨大な資料をもとにそれを再構成・整理して発表する、というものでした。これまたブルフィンチの取った手法と
同じです。彼の著書には出典を明記していないものも多いため、学術的には批判もあるようですが、
ハワイ神話の伝道師としての彼の功績を疑う人はいないようです。
■カラカウア王とDaggett
ハワイ王国7代目の国王、メリーモナークで知られるカラカウア王自身に「The
Legends and Myths of Hawaii」という著作があります。1888年発行。(ハワイ語でなく)英語で、しかも、ハワイの
神話伝説のみを扱う書籍としてはハワイ初の書籍です。それまでキリスト教文化の影響でマイナーな存在に追いやられて
いたハワイ固有の文化を復興させよう、という王の強い意志の表れのひとつとして位置づけても良いようです。

「カラカウア王自身の著作」として有名なこの本ですが、実際に王がどこまで関与したのかについては実はかなりの
疑問があるようです。本文にも「Edited
and with an introduction by Hon. R.M.Daggett」とあるよう、実際のところはほとんどDaggettが書いたのではないか?
という話のようです。
というのが、ハワイ固有の文化に造詣の深かったカラカウア王が書いたとは思えないほど、この本にはキリスト教的作為が
あまりに多いのです。ノアの箱舟、ケインとアベル、アダムとイブ、ギリシア神話のアイオロス、などなど・・。また、これは
王室発信の書籍としては仕方がないことかもしれませんが、当時のハワイ王朝を正当化すべく、伝説を歴史として記述しています。
(日本書紀のようなものかもしれません)。例えば、火の女神ペレも12世紀頃に実在した女性ということになっています。





