■個人的な所有物に宿るマナ
マナは生きている人間だけでなく、その人の遺体や髪やつめ、あるいは衣服にも宿るとさ
れました。特に爪や髪は、呪いをかけるときなどに悪用されることがあったようです。
高いマナを持つ酋長が亡くなったとき、その遺体が秘匿されるのは、遺体の持つマナが悪
用されないためでした。カメハメハ大王を筆頭として、古代ハワイの王族の墓所は未だに
不明なことが多いのはこのためです。
また、衣服にも宿るということから、よほど近しいもので無い限り、他人の服を着るとい
うのはもってのほかでした。どんな悪いマナが宿っているかわからないからです。現代の
フリーマーケットで古着が売られているのを見るとカフナは卒倒するかもしれません。
さらに、偉大な酋長の名前をはじめ、重要な言葉にもマナが宿るとされました。日本でい
う言霊思想と同じです。
ちなみに、カフナという名前は二重の意味(カオナ)を持っています。
「カ・フナ」と読むと、The secret。秘密という意味。「カフ・ナ」と読むと、keeper、
すなわち守護者という意味。2つを合わせて「秘密を守る者」ということになるようです。
【カフナ・ラニカウラの物語】
モロカイ島は昔から優れたカフナを輩出した場所として有名(※)でしたが、そのモロカイ
島、プウオホクという場所に、ラニカウラという名高いカフナが住んでいました。ラニカ
ウラはライバルのカフナたちの嫉妬を恐れて、呪いをかけられないよう、排泄物は対岸の
モクホオニキ島という小さな島に隠していました。それをラナイからやってきたライバル
のカフナ、カウェロに発見され、カウェロのかけた呪いによってラニカウラは殺されてし
まうのです。ただし、ラニカウラも自分が呪い殺されることを事前に察知し、自分の骨を
息子に託して隠してしまったといいます。
ラナイ島には、ケアヒアカウェロ(カウェロの祭壇:「神々の庭」と呼ばれる)という、神秘的な荒涼さで有名な場所があ
ります。ここにはさいほどのカウェロの祭壇があり、彼はここでずっと島の人々の息災を
祈って火をともし続けていたと言われます。また、神々の庭の積み上げられた石は、実は
あろうことか、ラニカウラの排泄物の形をしているそうです。
(※)12世紀頃、マウイ王カイコロラニがモロカイを侵略してきたが、カフナの力だけで
それをしりぞけた、という伝説もあり、「モロカイ・プレ・オオ」(強力なカフナといえ
ばモロカイ)」ということわざもあるほどです。
■女性の持つマナ
古代のハワイでは女性にはさまざまなカプが課せられ、なんとなく男尊女卑というか、女
性の地位があまり高くなかったように見えますが、それは大きな誤解だったようです。
女性は「子供を生むことができる」という点で、そもそも高いマナを持っているとされ、
その強いマナを男性がおそれたがために、さまざまなカプが設定されたというのが真相の
ようです。また生理の間は女性は専用の家で暮らすきまりになっていましたが、これは日
本の高野山のように「不浄」とみなしていたからではなく、生理の間、特に強くなるマナ
を外界から隔離して安全に守るため、という意味合いが強かったといいます。
女性がキラウエア火山を歩くときには、そのマナが女神ペレを刺激しないよう、特に注意
が必要とされていました。
■自然界のマナ
人間や動物だけでなく、草木国土全てのものにマナは宿るとされていました。薬用植物な
ど、「効能」のある植物などはそのわかりやすい例です。そうなると、マナの定義がわか
りにくくなりますが、よく使われるたとえ話は、「空にある雲は1つとして同じかたちの
ものは無いが総称して雲と呼ばれる。マナもこれと同じ。」ということだそうです。
どういうものにどういうマナが宿っているのかを知っておき、それを適切に用いる、とい
うのが暮らしの基本でした。それらを専門家的に知っていたのがカフナであり、カフナが
さまざまな分野のエキスパートであるというのは、要するにマナを知っていたということ
にほかならないのです。
現代科学と比較すると、迷信のようなところもありますが、例えば、病気を治すには、現
代では病院にいって診断を受け、薬を用いて直そうとします。しかしこれは非常に表面的
な治療ともいえるわけで、例えば風邪をひいた原因は、雨にぬれたから、というところで
終わります。しかし古代のハワイでは、病気の根本原因、すなわち「なぜ、自分が雨にぬ
れて風邪を引くような運命になったのか」というところまで遡って考えるのです。迷信と
一笑に付すのは簡単ですが、考えさせられる面も多いといえます。