ハワイの神話と伝説~プナと竜の女神

<第1部:出会い>
昔、「プナ」という名の、オアフ島の若い酋長がいました。彼はあのペレの姉にあたるハウメアに見初められて、 その夫に選ばれていました。ある日のこと、彼は仲間と一緒に、サーフィンをしようと、いい波を求めて浜辺を歩いていました。 なかなかよい場所が見つかりませんでしたが、やっとなんとか楽しめそうな場所を見つけます。

その沖合には1人の美女が泳いでいました。彼女こそがキハ・ワヒネ、竜(モオ)の化身だったのです。彼女はプナを 見て一目惚れしてしまい、なんとか彼を自分のモノにしようと考えます。で、彼に言うには
「ここはサーフィンにはあまりいい場所じゃないわよ」
「他にいい場所があるかい?」
「ちょっと遠いけど、いい場所を知ってるわ」
そして彼女はプナを誘って沖合へと泳ぎだします。浜辺の喧噪はすぐに聞こえなくなり、やがてオアフの山々すら見えなくなり、 ついにはモロカイ島のほうまでやってきてしまいました。

まんまとキハ・ワヒネの計略に乗ってしまったプナは、彼女の庇護のもと、モロカイ島の洞窟で監禁された 夫婦生活を送ることになってしまったのです。

あるとき、たまたま洞窟の外に出たプナは、あたりがなんだか騒がしいことに気が付きます。しかし、それを確かめに 行くわけにはいきません。なぜなら、キハ・ワヒネから、「勝手に外に出たら殺してやる」ときつく言われていたからです。

洞窟に戻ったプナは彼女に、あの騒がしい声は何なのか、と訊きます。
「たぶん、誰かがサーフィンをしているか、マイカ・ストーンを転がして遊んでいるのよ。誰かが優勝して、みんな歓声をあげてるんじゃないの ?」
「できたら見てみたいんだけど」
「明日になれば行ってみてもいいわよ」

<第2部:脱出>
翌朝、早速彼が浜に降りてみると、大勢の人がスポーツに興じています。そのうち、1人の男が彼の姿を認め、 にっこりと手招きをします。彼は、キハ・ワヒネの兄、ヒノレでした。みんなが遊び終えた後、 彼は飯でも食わないか?とプナを自宅に誘います。

ヒノレはプナに訊きます。「おまえはいったいどこから来て、今どこに住んでいるのだね?」
「山のほうから来ました。洞窟に住んでいるんです。」
ヒノレは行方不明になったオアフの酋長の話も知っており、この義弟をかわいそうに思って、
「いったいどういう経緯でこんなところにくることになったんだ?」と訊きます。

プナが全てを打ち明けると、ヒノレは、実はプナの妻は神なのだ、と教えます。そして
「洞窟に帰ったら、中にはいる前に、外からそうっと中をうかがってごらん。すると、彼女の本当の姿、竜(モオ)の 姿を見ることができるよ。でも、彼女はおまえさんがそういうことをしたことにすぐに気が付くし、 そもそも、俺たちが2人こうして喋っていることも多分気が付いているんじゃないかな。」
そういいながらも、彼は、プナに、ある秘策を授けます。

やがて帰宅したプナは入り口からそうっと中をうかがい、ヒノレの言うとおり、妻が竜の姿であることを 発見します。キハ・ワヒネはそれを知ると直ぐに人間の姿に戻りますが、怒り心頭です。
「どうせヒノレからこざかしい知恵を授けられたんでしょう!」と罵ります。
しかしキハワヒネは熱しやすく冷めやすい性格。やがて怒りも収まり2人は元のさやに戻りました。

そんなある日、プナは体調が悪いと言って寝込んでしまいます。キハワヒネがどうしたのか、と訊くと 「もの凄く喉が渇いた。これを直すには神の水を飲むしかないんだ」と答えます。

実は、これが、あのヒノレに授けられた計略とも知らず、キハワヒネは神の水、とはどういうことか、 とさらに問いただします。「神の水、というのは、ハワイ島マウナケアのポリアフの水のことなんだ。 僕が小さい頃は祖父母がよくこの水を持ってきてくれた。とても冷たくて喉ごしがいいんだ。 この島にいてはもう飲むこともできまい、と我慢していたんだけど、とうとう体調がおかしくなってしまった。 でも、どう考えても無理なお願いだよね。」
とプナは答えます。

キハワヒネはしばらく考えていましたが、「別に難しいことじゃない。今から行って水を汲んできて 上げるわ」と同情します。実は、彼はこの話をする前に、水差しに小さな穴をあけておいたのですが、
そんなことに気がつくキハワヒネではなく、早速ハワイ島に向かって出かけて行きました。

彼女が出かけるのを見届けるやいなやプナは起きあがり、別のカヌーでマウイ島に向かい、そこから カヌーを乗り換えて、マウイ経由でハワイ島のカウに到着します。

そして早速、ヒノレに教えられたとおり、まっすぐペレを訪ねます。
「おや、義兄さんどうしたの?」と訊くペレ。プナはこれまでの出来事を全部語って聞かせました。
「なるほど。そういうことであれば、あなたの妻は間もなくここに来るわね。多分、壮絶な戦いが起きる。 けれども私たちは決してあなたを渡さない。彼女の怒りは見境が無いので、あなたを渡したりしたら、 きっとその場であなたを殺してしまうから。」

一方、マウナケアに到着したキハ・ワヒネ。水を汲めども汲めども一向に水が貯まりません。 ついに彼女は水差しに穴があけられていることに気づき、それがプナの仕業であること、 またプナは近くのペレのところに身を寄せていることにも気が付きます。

怒った彼女はハワイ中の島々から竜の仲間を呼び寄せ、ペレ姉妹の住むクレーターを包囲します。 「おとなしく夫のプナを引き渡せ」と。ペレたちも応酬します。「おまえの夫がどこにいるって? ここにいるのは私たちの姉、ハウメアの夫だよ。そんなこともわからないの、このおばかさん」

まずは竜側の攻撃です。ペレたちの住む火口の中に水を吹きかけ、カモホアリイの火口以外はすべて 水浸しにしてしまいます。

次にペレ側の反撃。大地震を起こすと同時に、地面のあらゆる場所から熔岩を噴出させます。 竜たちはたまったものではありません。地震によってできた地割れの中に隠れた竜も、地割れそのものが マグマで満たされてしまって大やけどを負います。やがてほとんどすべての竜は焼き殺され、キハ・ワヒネは ほうほうの体でモロカイ島に逃げ帰ったのでした。


<第3部:末路>
「この元凶を作ったヒノレを生かしてはおかない」彼女はまず、ヒノレを探します。しかし、 彼女が追ってくるのを事前に察知したヒノレは魚に姿を変え、海の中へと逃げ込んでいました。 ヒナレアという、愛らしい魚です。

なかなかヒノレを見つけられず右往左往しているところを、オウナウナという女神がみかけ、声をかけます。
「いたずらに追っかけても無駄。イナルアのつるで作った仕掛けをつかわなきゃ、ペレとの戦い みたいにまた失敗するよ。」と嫌みをいいます。

早速仕掛けを作ったヒノレ。しかし成果はさっぱりです。オウナウナを捕まえ、よくもだまして くれたわね、と、彼女を殺しにかかります。しかし動じないオウナウナ。怒るワヒネをなだめながら、 「仕掛けの中に餌として、魚の卵と蟹の肉をすりつぶしたものが必要だということを伝えてなかった、 ごめんごめん。」と謝ります。

結局この仕掛けで、ヒノレは難なく捕らわれてしまいます。海岸にヒノレを引っ立てていき、 殺してしまうつもりでしたが、何とか助けてくれと命乞いをされ、罰として、永遠に魚のヒナレアの 姿のままでいることを言い渡し、自分はマウイ島のラハイナにある深い池で安住することにしました。

一方、ペレたちによって助けられたプナは、オアフ島のハウメアのところに戻ります。オアフでは、 プナが失踪した後、コウという男が酋長になっていました。

ある日、ハウメアが魚取りにでかけたときのこと、プナがバナナ農園で居眠りをしていたところ、 それをコウの部下たちに発見され、彼はとらえられてしまいます。コウの前に引き立てられたプナは、 その場で殺され、その身体はパンの木(Breadfruitstree)の枝につり下げられます。

戻ってきたハウメアは夫の死をきき、パンの木のところにかけつけます。木の幹を開いてその中に入って いくと、幹をぴたりと元通りに閉じます。やがてプナは木から落ち、犬たちが集まってきてその肉を食べ始めます が、その中にはコウが飼っている犬もおり、その犬はコウの側に戻ると首筋をかみ切って殺してしまった、ということです。

ページトップへ戻る